デジタル矯正時代における技工士の役割と基礎知識
近年、矯正歯科領域においてもデジタル化の波が急速に押し寄せており、診療や技工の現場に大きな変化をもたらしている。特に舌側矯正は、精度の高い治療設計と繊細な技工操作が求められる分野であり、デジタル技術の導入が有効に機能する代表的な領域である。しかし一方で、デジタル機器やソフトウェアの進化のスピードが速く、臨床に携わる技工士にとっては、その基本的な仕組みや活用方法を系統的に理解することが課題となっている。
本講演では、まずデジタル矯正に不可欠な基礎知識として、口腔内スキャナーによるデータ取得の特徴と限界、CT画像を用いたセグメンテーションの基本的な考え方について解説する。次に、得られたデータをもとに矯正設計ソフトで行うデジタルセットアップの流れを整理し、従来の模型上でのセットアップとの違いや、臨床的に留意すべき点を具体的に示す。また、3Dプリンターを活用した造形技術に触れ、特に間接ボンディングトレイの作製手順を取り上げる。プリンターの方式や材料特性による精度の違い、造形時の注意点についても基礎的な視点から整理することで、初学者にも理解しやすい内容とする。
さらに、デジタル化により効率化が進む一方で、技工士の役割が軽減されるわけではなく、むしろ治療精度を左右する重要な判断が求められることを強調したい。例えば、スキャンデータに含まれるノイズの処理、セグメンテーションの境界設定、セットアップ時の歯軸傾斜の調整などは、自動化だけに任せることができない工程であり、技工士の知識と経験が不可欠である。
本講演の目的は、これからデジタル矯正に取り組む技工士に対して、基礎的な知識を整理し、デジタルワークフロー全体の流れを具体的に理解できるようにすることである。基礎をしっかりと学ぶことで、新しい技術にも応用できる柔軟な対応力が身につき、今後さらに進化していくデジタル矯正時代において、技工士としての役割を確立できるものと考える。