日本成人矯正歯科学会

第30回秋季学会セミナー 抄録

福岡歯科大学成長発達歯学講座主任教授 玉置 幸雄
タイトル:機械学習を応用した個成長予測の可能性

成長期の骨格性下顎前突症例に矯正歯科治療を行う場合、成長後の顎顔面形態に対するある程度の予測が求められる。初診時の診断の際、骨格性Ⅲ級に加えて、下顎角の開大、下顎切歯の舌側傾斜によるデンタルコンペンセーション、下顎骨体そのものの過大、頭蓋底と上下顎骨との著しい位置の不均衡などセファログラム上の形態的な問題が多く観察された場合、将来的に外科的矯正治療の適用となる可能性を説明することが多い。これは、成長期の骨格性下顎前突の治療は、一時的なカモフラージュであることが多く、真に下顎前突を改善することは、どのような方法を選択しても困難であることが理由である。このため、Proffitは、早期治療の成功には限界があり、成長期において積極的な治療を行わない方針が最良である可能性を述べている。

成長期に治療介入した場合の骨格性下顎前突の外科的矯正移行率については、いくつかの報告がみられる。思春期成長前に前歯部で4mm以上の反対咬合は結局手術が必要になる、混合歯列期の反対咬合を矯正歯科的に管理しても6%が外科的矯正治療に移行する、上顎前方牽引装置適用後に多くの症例で2年後も良い結果が維持されるが20%は都合の悪い成長が生じる、骨格性Ⅲ級症例の15~25%は顎整形力適用後の後戻りがみられるなどの報告から平均的には少なくとも6~25%の症例は顎整形力使用後に外科的矯正治療を経験する可能性があるものと推察される。

しかしながら、成長期に顎整形力を適用することで被蓋の改善が得られる症例が存在するのも事実である。このため、矯正歯科医は、成長期の骨格性下顎前突症例の個々の治療予後を事前にできるだけ予測したい立場であり、これまでに個成長予測や治療結果の予測のさまざまな方法が考えられている。大別すると、顎顔面形態を計測・分析し形態の類似した骨格パターンとの比較で成長後の顎顔面形態の傾向を判別する方法、硬組織各部の年間平均成長量をあてはめ成長後の顎顔面形態を作図的に描画する方法、身長あるいは頸椎・手などの骨の情報から思春期性成長を予想し成長段階を中心に判定する方法、遺伝的な情報をもとに成長後の状態を推定する方法などである。これらには、それぞれ利点欠点があり、今後も研究が必要なテーマである。

成長期の骨格性下顎前突症例の予後を推定する一つの方法として、既に治療結果がわかっている症例の情報を初診時と治療後とで大量に収集し、似た症例をいくつも学習することでパターン化し、パターンごとに疑似的な予後として提示する方法が考えられる。このような用途には、コンピュータによる機械学習が応用可能であると考えられ、今後、発展する余地のある分野と思われる。 本学では2000年頃から、個成長予測や成長期の骨格性反対咬合症例の治療結果予測に自己組織化マップによる機械学習を応用する試みがなされており、その可能性についてあらためて考えてみる。

↑ PAGE TOP