日本成人矯正歯科学会

第27回秋季学会セミナー 抄録

タイトル:矯正歯科臨床におけるマウスピース型矯正装置について考える

常盤矯正歯科医院 院長 常盤 肇


近年のデジタル技術の発達に伴い、矯正歯科臨床の取り組み方についても大きな変革の波が押し寄せている。その一つがマウスピース型矯正装置による矯正治療(以下、アライナー矯正)である。以前よりその概念は存在したものの、1999年にアラインテクノロジー社がデジタル方式を用いたインビザラインを販売開始し、20年余りの間に歯科矯正界の様相をアライナー矯正に塗り替えてしまったと言っても過言ではない。
アライナー矯正は、これまで、見た目、痛み、異物感、取り外しできないなどネガティブなイメージの強いワイヤー矯正を全て覆すメリットを有しており、加えて歯の移動というバイオメカニズムについては、大臼歯遠心移動や移動速度など多くの利点を有していることも特筆すべき点である。長い技術的研鑽を積まなくても歯列模型を送るだけで容易に最終段階までの矯正装置が手に入るのも大きなアドバンテージである。その反面、PC上でのヴァーチャル空間における歯冠データで理想的なセットアップが行えたとしても、その特性や治療方針を見誤れば、歯根や歯槽骨、咬合力などの存在する生体では即、崩壊が訪れてしまう。この点が最も注意を要する点である。
このようにメリットも多いアライナー矯正装置であるにも関わらず、多くの矯正専門医は、未だアライナー矯正の導入に及び腰なのはなぜなのであろうか。
歯科矯正学には、頭部エックス線規格写真を中心とした診断学が確立している。その治療ゴールには患者の主訴が盛り込まれ、そこに達するための最適な治療方針や治療方法(治療装置)が選択される。もし、そのゴールに到達し、患者のニーズに合わせるためにアライナー矯正が最適なのであれば、間違いなくこれを選択すべきなのであるが、多くの矯正専門医が自身の治療ゴールへの第一選択に選べていないのが現状である。間違っても、アライナー装置を使うためにその治療方針やゴールが変更されるのは許されないことなのである。
今後アライナー矯正は、矯正歯科治療の中心となるものと考えている。しかし、使用するほどに素晴らしい発見もあり、新たな問題点も見つかり、このシステムが未だ発展途上の技術であり、進歩が必要であるというのが正直なところである。
今回、アライナー矯正について私見を述べさせていただくとともに、矯正専門医として、アライナー矯正をどのように矯正歯科臨床の中に取り入れているか、クリアコレクトを中心にお伝えしたいと考えている。

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